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第二節「二〇〇二年、夏」イメージイラスト
 朝のすがすがしい空気は、日射を強めた太
陽によって徐々にはぎ取られていく。蝉の鳴
き声が一段と大きくなり、抜けるような青空
にはまばらに白い雲が浮かんでいた。
 理奈は目を細めて天空を見あげる。
 青く塗られた空の向こうに、彼らの生まれ
育ったコロニーはまだ存在しない。それでも
郷愁を感じずにはいられなかった。決して楽
園ではなかったが、彼女の故郷には違いない
のだ。
「ここは楽園ね」
 理奈はひとりごちた。
 その楽園が、束の間の世界であることを彼
女は知っていた。見えていても、辿りつくこ
ともつかむこともできない、虹のようなもの
だと。
 理奈はいまこうして生きていることの実感
のなさに、我ながら驚いた。かといって、未
来の世界でどれほどの実感があったのかも自
信がなかった。

〜『ラスト・フォーティーン』第二節より〜