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NOVEL AIR【net-novel-1】


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リレー小説『ラスト・フォーティーン』のページです。
本作は2001年11月3日〜2002年7月8日に渡って、週刊連載されたものです。
本作品に対する、ご意見、ご感想等は、「BBS2」に書き込みしてください。
執筆陣⇒諌山裕/水上悠/森村ゆうり/大神陣矢/皆瀬仁太
【設定・紹介ページ 】【各話人気投票】【キャラ人気投票】


.第二五節「秘密」返信  

【Writer:森村ゆうり】


 カリカリという小さな音がはてしなく続く、緊迫した空気に占領された教室で、生徒たちは本分である学習の成果を示す試験に取り組んでいた。
 天原祭が終わるとすぐに学園は中間考査のテスト期間に突入する。生徒にも教師にものんびりする暇は与えられない。天原祭で浮かれきった気分を引きずったまま、試験に突入してしまう生徒も少なくなかった。
 そんな生徒たちの尻をたたき、勉強へと向かわせながら教科ごとの試験範囲の取り決めを行ったり、手分けして試験問題を作成したりと教師たちも連日遅くまで職員室に残り仕事をこなす日々が続くのだ。
 そんな日々も、あと数十分で終わりを告げる。
 青く澄んだ空が美しい。
 菅原は教室の窓から見えるどこまでも続く青空に深まる秋を感じていた。
 普段は特別教室で授業をしている菅原は、滅多に足を踏み入れることのない二年一組の教室で試験監督を任されていた。
 この時間が終われば、中間考査の全ての日程が終わる。三日にわたって行われる試験の最終日、最後の科目は理科だ。
 開始から十分程しか経っていないこの時間は、まだ生徒達は問題に集中しているため、菅原はなるべく音を立てないように注意しながら机間巡視をする。
 試験監督は、暇との戦いだ。
 菅原は、3ヶ月ぶりに入った二年一組の教室の様子を眺めたり、窓の外に視線をやったりしながら時間を過ごす。
 天原学園の試験監督中の決まりごとでは、監督中に他の仕事などをすることは禁止されている。試験中の不正行為の取り締まりや不測の事態の収拾に努めるのが、監督を任された教師の役目だ。
 とは言え、不正行為も不測の事態もそうそう起こることではなく、せいぜい生徒が落とした消しゴムを拾ってやったりするくらいしか監督の仕事はないのだ。
 それでも菅原は家庭科教師で、一般教室に入る機会が少ないぶん、教室の後ろに掲示してある生徒の書道作品や忘れ物記録グラフを見て、時間を潰せるぶんましと言えるだろう。
 天原祭が終わったばかりのこの時期には、どの教室にも写真が掲示されていて、焼き増しして欲しい写真の下に生徒の名前が書かれていたりする。二年一組も例外ではなく、やはり写真が張り出してあった。
 菅原の目に留まったのは、立原のセブン・オブ・ナイン姿の写真だった。
 なんで、ここにはこんな写真があるんだ。 彼は、叫びだしたい気持ちをぐっと押さえる。菅原がどんなに頼んでも立原はそのコスプレ姿を写真に撮らせてくれなかったのに、この教室には少し照れ臭そうにした立原が二年一組の生徒とおぼしき数名と写真に収まっているのだ。
 やっぱり、よく似合っているよな。
 あまり長い時間一ヶ所でじっとしていては、生徒に不審がられるため、菅原は、急いで胸ポケットに差してあるボールペンをとりだすと、その写真の下に自分の名前を書き込んだ。そして、何食わぬ顔で机間巡視を再開する。
 待望の写真を手に入れられる喜びが、菅原の表情を緩ませた。
 理科や社会の試験は、問題を解き終わる時間に生徒によってかなりの差があり、そろそろ全てを解き終わった生徒がではじめたころ、教室の扉が静かに開いた。
 教科担当の教師は、試験中に各教室をまわり生徒の質問に答えたり、内容がわかりにくい問題に関しての注釈をしたりするのだ。二年一組には副担任でもある立原が現れた。
「ご苦労様です」
 二人は小声で挨拶を交わした。
「えー、問五の括弧二の問題ですが、一部印刷が薄くなっていて読みづらいという指摘がありました。その部分は記号で答えないさいとなっていますので、答えは記号で書いて下さい。他に質問があるものは挙手してください」
 立原は手を上げた数名の生徒のもとへ行き、なにやら生徒の質問に答えている。挙手している生徒がいなくなると、しばらく机間巡視をしてから「それじゃ、最後まで頑張って取り組んで下さい」生徒達に言葉を残し、菅原には「よろしくお願いします」と声をかけて教室を後にした。
 担当教師の巡回が終わると、それまで漂っていた緊迫した空気が少しだけ薄れる。特に理科や社会といった教科は、知っているもしくは覚えている部分を答えてしまえば、後は手の打ちようがなく、時間だけを持て余すものだ。立原が訪れる前から、すでに問題を解き終えたらしい生徒達が手持ちぶさたに、答案用紙の裏に落書きをしたり、机に俯せていたりする姿があった。
 さらに時間が経過した今、大半の生徒が問題を解き終えたのであろう彼らの頭の中は、すでにテスト終了後の予定でいっぱいなのが、簡単に見て取れる。
 そんな中、菅原に注がれている三つの視線があった。やはり早くから問題を終わらせた様子の津川光輝と綾瀬理奈、加えてジャネット・リーガンの三人だ。
 試験監督中、暇を持て余した生徒の視線が痛いのはいつものことだが、今、この三人が菅原におくっている視線は、慣れ親しんだ感覚とは違うもっと真剣なものだった。全てを見通そうとでもしているようなその眼差しに、さすがの菅原も戸惑いを覚える。
 食材の品定めをするのは好きだが、自分がここまで品定めされるのは、どうもいたたまれない。
 教壇に戻りながら菅原は思う。
 言いたいことがあるのならば、はっきり言って欲しいものだ。
 試験の最中でなければ、菅原は三人に問いただしていただろう。それくらい三人の視線は菅原に絡んでくるのだ。
 教壇の左側の壁に掛けられている時計の針が、ぴくりと一目盛動く。この時限も残り僅かだ。カタカタと小さな音を立てて、鉛筆や消しゴムを片づけ始める生徒もいた。
 かちっ。スピーカーがオンになる僅かな音が聞こえたすぐ後に、終了を告げるチャイムが鳴り響く。
 生徒たちの大きなため息が聞こえた。
「はい、じゃあ鉛筆を置いて、クラス、出席番号、名前、きちんと記入してあるか確認したら、答案用紙のみ速やかに後ろから回収して提出」
 菅原は、お決まりの台詞で生徒に指示を出す。長く退屈な試験監督の任からようやく開放される安堵感で、生徒同様彼自身もホッとしていた。
 集められた答案用紙の番号と名前を簡単に確認する。
「それでは、終わります」
 菅原の合図に、クラス委員の号令で挨拶を済ませると、生徒達は今終わったばかりの試験の内容について話ながら、席を移動し、帰り支度に入っていく。
 菅原は、出席簿と答案用紙を抱えてて二年一組の教室を出た。
 もしかしたら、放課後3人からなにかとんでもない話を持ちかけられるかもしれないという予感を抱きながら、菅原は職員室に向かったのだった。

「はい、立原先生」
 職員室に着いた菅原は答案用紙をすぐさま立原に手渡した。
「ありがとうございます。特に何もなかったですか?」
「ええ、いつも通りですね。何かあったほうが、こちらとしては面白いんですけどね」
 冗談めかして言う菅原を立原が少し睨んだ。
「忙しいんですから、冗談は程々にして下さいよ。菅原先生。それから、一組の天原祭の写真ですけど、教師は焼き増したのめませんから」
「ええっ! そんな……」
 しっかりチェック済みな所業に釘を刺されて、菅原は大げさにがっくりと肩を落として見せる。もちろん教師は焼き増しを頼めないという決まりはない。
 ふざけてばかりいる菅原をいさめる方便だが、菅原の方もそれを承知の上で大仰に振る舞っている。
「お茶を入れてきますから、そんなこと言わないで下さいよ。立原先生」
「お茶菓子付きなら考えてもいいですよ」
「分かりました。手を打ちましょう。昨夜、作ったフィナンシェを持ってきています。特別にお分けしましょう」
 菅原はごそごそと机の下から、ピクニックにでも行けそうな大きさのバスケットをとりだして笑った。
 実を言えば、定期考査の最終日に菅原が手作りおやつを持参して、お茶と共に職員に振る舞うのはここ数年の恒例行事なのだ。中間考査の時は、特に手の込んだお菓子を用意してくる。
 中間考査には家庭科は含まれない上、部活動もない菅原は、普段よりも早く仕事が終わるような状況なのだ。そんな理由で、菅原はバスケットを開いて立原にフィナンシェを二つ手渡した。
「今、お茶を入れてきますから」
 菅原はそう言うと嬉々として給湯室に消えていった。
「不思議な人だ」
 呟きに顔を向けると、いつの間に現れたのか、立原の目の前には津川光輝が立っていた。
「津川くん……、どうしたの?」
「いえ、たいした用事ではないのですが…、菅原先生に…」
「菅原先生?」
「はい。……お忙しそうなので出直してきます」
「すぐに戻ってくると思うけど…」
「やはり、出直します」
 津川光輝は、引き止めようとする立原の言葉には耳をかさず、さっさと職員室から出て行ってしまう。
 光輝が出ていって、いくらも経たないうちに菅原はトレイにたくさんの湯飲みやマグカップを乗せて戻ってきた。立原だけでなく他の職員の分のお茶も入れてきたようだ。
「どうかしましたか、立原先生」
 立原愛用の大きなマグカップを手渡しながら、菅原は立原に訊ねる。
「津川が……」
「津川が来ましたか?」
「ええ、先生と入れ違いで」
「何か言ってましたか?」
 試験監督中の津川たちの様子からすれば、あり得る話だ。
「また出直して来ると、言ってましたけど」
「そうですか」
「なんだか、いつもの津川らしくなかったけど、菅原先生は何か御存知なんですか?様子が変でしたけど」
 副担任らしく、普段と違う生徒の様子に敏感に気が付いた立原が訊く。
「まあ、あの転校生たちはいつでも変ではあるでしよう」
「そうですけど」
「試験中、やけに僕のことを見てるなあとは思ってましたが、特に心当たりはないですね」
 全く心当たりがないと言えば嘘になるかもしれないと、菅原は思った。
 たぶん、郷田会長がわざわざ菅原と立原を呼びつけて話した特別事情というものに関係しているのではないかと思われたが、郷田からはあれっきり何の話もない。天原祭での音響トラブルの件もうやむやのままだ。これらに関係した相談なのではないかと予想している。
「とにかく、津川から何か相談された時はよろしくお願いします」
「分かりました。放課後にでも僕から話しかけてみます」
 菅原の言葉を区切りにして、せっかく用意してきたお茶が冷めないうちに、職員室は全体的に休憩時間へと移行していったのだった。

 定期試験が終わった日の放課後は、久々に賑やかな生徒の声が溢れて活き活きとした雰囲気が校内に満ちる。運動部も文化部も今日から部活が再開される。
 菅原が顧問をしている手芸部と料理研究会の正式な活動開始日は明日からだったが、彼は家庭科教官室の鍵を持って職員室を出た。明日からの活動準備を名目にして、中間考査期間中はあまり利用できない菅原のお気に入り空間でのんびりしようという魂胆である。
 調理実習室の奥にある家庭科教官室には、入り口が二つ有り、生徒たちは調理実習室の中にある入り口から出入りし、菅原はそれとは別の反対側の廊下に面した入り口を利用する。
 菅原はいつものように廊下側の入り口の鍵を開けて中に入った。
 調理実習室から数名の人の気配を感じた。
「ホントに大丈夫だと言いきれるの?」
「大丈夫だと思う」
 何やら話をしている声が、家庭科教官室まで届いていた。向こうの方は、話に夢中になっているのか隣の部屋に入ってきた菅原には気付いていないようだった。
「協力者は多いほうが、情報も得やすいと思う」
「多すぎても、歴史に干渉しすぎることになるわ」
「歴史への干渉を問題にするなら、このプロジェクトは最初から行われなかったってことだろ。郷田さんにも相談してみたけど、菅原先生なら大丈夫だろうと言っていた」
 菅原は突然自分の名前が出され驚きながらも、調理実習室にいる生徒の目星がつきはじめる。
「それなら立原先生にも話してもいいんじゃないの? 郷田さんは、あの二人をかなり評価しているわ」
「立原先生の前に菅原先生に話したほうがいいと思うんだ。彼女は二一世紀現在の理論に縛られている所がある。ぼくたちが秘密をうちあけたとき、その理論が邪魔をする可能性が高い」
「菅原先生にはそれがないというの?」
「ないとは言いきれないけど、少なくとも興味は持ってくれるだろう」
「興味? そんなもの持ってもらっても仕方がないんじゃない」
 聞けば聞くほど理解に苦しむ会話だったが、彼らの話し合いは真剣そのものだということは菅原にも感じ取れた。
「仕方ないことよ。バカにされず、興味を持ってもらえるだけでも、わたしたちにとっては有益なことじゃないかしら、二六世紀から来たなんて言っても信じて貰えないのが普通というものでしょ」
 二六世紀……?
 そのあまりに現実離れした会話に、菅原は自分の耳を疑った。
 彼らは何の話をしているんだ。
 菅原は、気配を殺して調理実習室の会話に聞き耳を立てていたのも忘れて、胸ポケットからたばこを一本取りだし、百円ライターで火を付けた。
 ライターの音は存外に大きく室内に響く。
 調理実習室の会話が止まった。
「そこにいるのは誰だ!」
 どうやら見つかってしまったらしい。
 菅原は、たばこを深く吸い込んで一気に吐きだし、調理実習室に続く扉の鍵を開けた。扉を開いて彼らの前に姿を見せる。
 驚きと戸惑いをにじませた八つの瞳が、菅原を見詰めていた。
「す、菅原先生……」
「詳しい話を聞かせてもらおうかな」
 菅原はそれだけ口にすると、再びたばこを吸い込んで、煙を吐きながら教壇の椅子に腰掛けて、四人の生徒が口を開く瞬間をただ辛抱強く待ち続けたのだった。
森村ゆうり 2002/04/22月02:51 [26]


.第二四節「ある夜のイヴたちへ」返信  

【Writer:皆瀬仁太】


 晩秋。
 風に揺れる紅葉が、濃く、鮮やかだ。
 もみじ葉は、美しく色づいて来た季節と冬とを隔てる、境界線といえるのかもしれない。やがて本格的に葉は降りはじめ、生じた隙間から少しずつ冷たい風が吹き込んで来るのである。

 また、冬が来る――。
 そんなつぶやきが聞こえたような気がした。
 
 また、ふたたび、繰り返し……いつまでも巡る季節。
 それが幻想であることは、誰でも知っている。知ってはいるが、「形あるものはいつか……」という程度の、実感を伴わない、漠然とした意味でのことだった。
 この歴史の延長上、たかだか四〜五百年先に幻想の終焉が訪れることなど、フィクション以外にはありえないの世界観なのである。
(警鐘を鳴らしたらどうだろう?)
 怪しげな宗教活動と思われてしまうだろうか?
 もしかしたら、いまの人々にとっては四百年先も、たとえば地球や太陽が星としての寿命を終えるぞ、というくらいに実感のない話なのかもしれない。
 だからこそ、二十六世紀は死にかけているのだろう。

 警鐘は鳴らしているの。不安を感じている人も増えている――。

 午前二時二十五分。目を覚まして、かたわらの少女と話している。
 そんな夢を見ていた。
 夢であることを自覚しながら。
 夢でないこともまた、自覚しながら。

 季節の永遠(とわ)の循環。
 幻想。
 もし、それが人々の願いになったとしたら、歴史は変わるのではないだろうか?

 祈り。祈りにならないと。祈りにしないと。
 祈りになれば、歴史は変わるの?
 ううん。分岐点が見えるの。
 分岐点?
 そう。どっちにいくかの分岐点。
 どっちにいくか? そこを間違えなければ破滅は避けられるのね?
 違うよ。
 違う?
 うん。どこを選んでも破滅だもの。

    * * *

 なぜ地球にこだわるのか?
 コロニーに生まれ、コロニーに育った人々には、ときとしてそれは滑稽なことであった。 より安全な環境をつくることにこそ、予算と時間と人材を割くべきではないか?
 たしかに平均寿命を最盛時と比較すれば、四分の一程度にすぎない。しかし、その分、生きている密度の濃さが違うのだ。長寿だが無気力だった時代の、何倍ものアカデミックな、あるいは芸術的な成果が残されている。
 なにより、もともと二十数年の平均寿命として生まれて来た彼らには、現在の状況が普通であり、大昔の長命族のように生きようとは思わないのである。
 こんな思想が少しずつ芽を出しはじめていた。
 この思想を支えるのは、「人類の寿命は、これ以上短くならない」という、ある学派の出した結論であり、その結論の信憑性は、彼らがバイオハザード以前のヒト遺伝子の大量入手に成功したために百パーセントである、といわれている。
 ただし、このことは噂の域を出ていない。いや、むしろ噂にとどめようとしている節があった。理由は単純に国益がらみといわれている。
 彼らは、自分たちの優位をリセットされることを当然好まず、イヴ・プロジェクトに対して警戒心を持っていた。警戒心が、敵対に変わるのは、プロジェクトの影響が人類の歴史全般におよぶ可能性が極めて高いという計算結果のためであった。

    * * *

 個人の利益のためにプロジェクトを妨害するなんて許されるはずがないわ。
 でも、それが現実なの。それより、人は滅亡しないかもしれないの。このままなにもしなければ。
 ……。
 人にとってはどっちがいいのかな? 正義が滅ぼすのと、悪が救うのと。
 違うわ。違う。間違ってるわ。
 なにが?
 人の根源に手を加えること、それが間違いだったから、滅亡しかけていたのよ。また同じことを繰り返すだけじゃない。
 そう思う?
 ええ。わたしたちのやってることがマイナスだったなんて思いたくないけど、もし、未来が救えるなら、任務を放棄したっていい。でも、その方法は間違ってる。また同じように人は手を加えられてゆくわ。今度はうまくいくはずだ、ってね。
 うまくいって繁栄するかもしれないのに?
 うまくいかないわ。
 わかるの?
 わかる。
 そうね、正解。
 え?
 だって、そんな美しい未来、だれも視ていないもの。

    * * *

 歴史が書き換えられるということは、人々の喜怒哀楽のすべてが無に帰することでもある。それまで存在していた彼らを消してしまっていいのか? そんな権利は我々にあるのか?
 人権派と称する連中のこの運動は、意外と反響を呼んだ。賛否両論の反響である。
 歴史を変えるなどということをせずに救われる道がないか、もっと考えるべきだ、という主張は、正論だった。しかし、では代案があるかといえば、そこは空洞だったのである。
 その空洞部分にはめ込まれたのが、ヒト遺伝子の先祖返り計画だった。
 過去へ送る連中に、その時代の遺伝子のできるだけ多く未来へ残す作業をメインにするよう計画を切り換えるべきだ、と主張しはじためのであった。この主張は、しだいに賛同者を増やしつつあった。

    * * *

 あなたが失敗できない理由。新しいチームは遺伝子確保の方向で動くの。もう、あなたたちの仲間は来ない。それに危険。
 どういうこと?
 イヴ・プロジェクト自体をつぶすことを目的にしたチームもあるの。あなたたちが危険なの。
 そんな……。
 でも、あなたたちだって、イヴの抹殺だって考えていたでしょ? 同じこと。
 違うわ!
 違わない。
 違う。いまはイヴをどうこうしようなんて思ってない。それは情報不足だったから考えたひとつの可能性だわ。でも、間違ってた。イヴをどうにかするんじゃない。イヴといっしょにやらなきゃいけないんだわ。
 なんでそう思うの?
 わからない。でも、あの声がイヴだったとしたら。
 だったとしたら?
 イヴはあたたかかった。
 イヴはあたたかいの。でも、プロジェクトはあたたかくない。
 どういう意味?
 イヴ・プロジェクトはね――

    * * *

 歴史が書き替えられる可能性がかなり高い確率で存在することが示唆されていた。それは避けなくてはならない。いらない人間は滅べばいいのであって、すべてをリセットする必要はないのだ。
 イヴの芽はつまなくてはならない、評議会はそう結論した。
 ミレニアム・イヴ抹殺計画、これが本来のイヴ・プロジェクトなのだ。ゆえに、過去に送り出されるチームには、深層意識下に命令が刷り込まれている。
 ――まことしやかにそんな噂が流れた。
 真偽のほどは、恐ろしいことに、定かではなかったのである。

    * * *

 ……そんなバカなこと。
 どうかな? ほんとかな? うそかな?
 嘘に決まってるでしょ。
 嘘じゃないところもあるの。
 ……
 いるのよ、意識の下にイヴに敵対する刻印をされているひとたち。あなたのまわりにも。
 嘘よ!
 どうかな?
 信じない。
 それもいいかもね。
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……ねえ。
 なあに?
 あなた誰なの? イヴじゃないの?
 イヴじゃない。だって――
 だって?
 イヴはあなたの中にいるんだもの。

    * * *

 午前六時。
 のそみは目を覚ました。

 理奈は目を覚ました。

 キャサリンは目を覚ました。

 ジャネットは目を覚ました。

 そして次々と……。
皆瀬仁太 2002/04/15月06:05 [25]


.第二三節「未明の綾瀬」返信  
 

【Writer:大神 陣矢】



 綾瀬理奈はつと躊躇った。
 手をいちど引っ込め、……しかしややあって再び手をドアへ差しのべる。
 その部屋つまり十四号室は、彼女たちが暮らす聖天原学園女子寮A棟の真ん中に位置しながら、長らく空き部屋であった。
 というのも、二十年ほど前のこと、この部屋にいた学生が不慮の事故により命を失うという事件があり、以来新たな住人が入るたびに、不幸な出来事に遭う……という噂が絶えなかったせいだ。
 ある者は原因不明の病を得て入院し、またある者は階段を踏み外して大怪我を負い、かつまたある者は実家が破産し、一家離散の憂き目をみた……という。
 それらはけっして信憑性ある話ではなかったけれど、じっさい学生たちはこの部屋を用いることをいとい、また学園側も無理に生徒を割り振ることはなかった。
 十四号室は、いわば女子寮の『聖域』として、長いあいだ放置されてきたのである。
 ところが現在の入居者は、くだんの噂をはばかるどころか、
 ――ひとり部屋のほうが気楽ゆえ。
 という、ただそれだけの理由で、この部屋をねぐらにすることを決めた。
 ――『たたり』が怖くはないの?
 と驚きまた感心する他の生徒らに、彼女はさして誇るふうでもなくいった。
 ――そもそも、たたりとか呪いといったものに『感応』し、その影響を受ける人々は、おしなべて感受性がつよいものだ。かれらは提供された『反射物』としてのたたりとか呪いに自分自身の感性を投影し、みずからの手でそれを実効たらしめてしまう。そこへゆくと、私のようにどうにも不粋な人間は、そうした反射物に対してきわめて鈍感だ。それだけのことであり、さほど誇ることではないよ。
 十四歳の少女としてはいささか大人びた、というよりは老成した見解であったが、ひとは彼女が外国育ちという触れ込みであることから、なんとなく納得することにした。
 それが実際は、見かけからは想像もつかぬ数奇な体験によってつちかわれた他に例をみない独特の性質のあらわれである、と知っている者はごくわずかにすぎぬ。
 その数少ないひとりである理奈は、この個性の持ち主に敬意と好感をいだいてはいたが、また同時にすくなからぬ負の感情を抱いてもいた。それは無自覚的なものであり、それゆえにいっそう深刻なものでもあったのだけれど。
 そしていま理奈は、ひとつの決意を秘め、彼女を訪ねようとしている。
 なおしばらく躊躇ったすえ、彼女はノックとともに住人の名を呼んだ。
「……御子芝さん、起きてる? 綾瀬だけど」
「ああ。何だ?」
「ちょっと、話があるんだけど……いい? 大事な、話なんだけど」
 かまわんよ、との返事に、理奈はドアを開き……
「!」
 そのまま、絶句した。
 床いちめんに広げられた布の上に、数知れない金属製の物体が並べられている。
 それは瞬時に、刃物、飛び道具のたぐいだと見て取れた。
 日本刀、脇差、手裏剣、暗殺用器具……銃器などは見当たらないが、それでもこの時代の『護身用武器』の域を超えた品々であることは一見して明らかだった。
 物心ついたころから武器の取り扱いにかんしてはさまざまな訓練を受けてきている理奈だが、二一世紀に来てからこれほどの武装を見たことはない。
 あっけにとられている理奈とは対照的に、部屋の主は涼しい顔で太刀を分解し、手入れをほどこしている最中だった。その手を休めることなく、
「すまんが、閉めてくれるか? さすがに、他の生徒に見られるのは不都合なのでな」
 言われて、あわてて後ろ手に扉を閉める。と同時に、言葉が口をついて出た。
「こっ、これ、何?!」
 理奈にしてみれば当然の疑問だったが、御子芝は彼女が指差す武器の数々を一瞥し、不審げに問い返した。
「見てのとおり、得物だが」
「それっ……それはわかるけどっ。いや、そのええと」
 理奈は頭をかかえ、うずくまった。これも一種のジェネレーション・ギャップということになるのだろうか、などとムダなことは考えず、混乱した思考をまとめることに専念する。
「うん。えーっと、いくつか聞きたいことはあるけどとにかく順を追うことにするわ」
「そうしてくれると」太刀を組み立て直しながら、御子芝。「ありがたいな」
「じゃあ……まず質問その一。これって……本物?」
「いかさま」
「……質問その二。どこから、どうやって、調達してきたの?」
「話せば長くなるが、かまわぬかね?」
「……どれくらい?」
「さわりだけでも小一時間、というところか」
「……じゃいいわ。そして質問その三.……これ、どうするの?」
 ぱちり、と鞘に太刀をおさめ、御子芝樹は静かにいった。
「持って行くのさ。置いていくわけにもいくまい?」


「やあ、アンディ」
 その声は、すぐ背後からだった。
 アンドルー・ラザフォードは、びくりと身を震わせ、周囲をうかがった。
 ふいに思い立った夜歩きのさなか、学園の裏手の林のなかをうろついていたおりである。
 だが、たとえば宿直の教師であるにしては、声がいささか若いようだった。
 しかし彼は相応に注意をはらって歩いていたのであり、にもかかわらず背後をとられ、かつ、かなりの接近を許していたことに、驚いていた。
「――誰だ?」
 声を、荒げていた。それは相手に対してというより、自身のうかつさに対する憤りが大きい。
「――そう、大声を出さなくてもいい」
 含み笑いととも、月明かりのなかに人影が浮かぶ。黒髪の少年。
 見たところアンドルーと同程度の年代と思われた。見かけ華奢なつくりだが、そのまなざしには印象的な力がある。
 面識はなかったが、彼はこの人物を知っている。――
「……高千穂、涼か」
 少年はククッ、と喉の奥から搾り出したような声で笑った。それにともなって浮かんだ笑みは、不敵とも邪悪ともつかぬ妖しいもの。その視線は少年にしては深い……それも棲んだ湖などではなく、濁りよどんだ沼のような、深さ。
(……厭な、男だ)
 直感的に、アンドルーはそう思った。
 高千穂の『経歴』は心得ている。その数奇きわまる体験ゆえに、常人とは隔離した性質の持ち主であるジャンパーだと。
 常人ばなれ、ということであれば、アンドルーも、また彼の仲間たちもおさおさ劣るものではない(なにしろ、二六世紀人だ)が、おなじジャンパーでも、この男は決定的に異質だ、と。
(――御子芝樹とは大違いだな)
 やはり面識こそないが、同じ境遇の御子芝に対してはアンドルーはけして悪感情を抱いてはいない。それはフェミニズムとはおよそ無縁なことであって――もっと本質的な、人間性の問題だ。
(彼女は信用できる)
(だが、この男は……)
 つかみどころがない。得体が知れない、といってもいい。
 彼は相棒のゲーリーや、綾瀬チームでいえば神崎のような、わかりやすい人間を好むところがあった。
 それはけっきょく、一種の近親憎悪でもあったが――ともあれ、彼は不快感を隠しもせず、いった。
「なにが、おかしい?」
「いや、別に。……声をかけただけでそう怖がることもなかろうと思ってねぇ」
 思い出し笑いをこらえるふうな高千穂に、アンドルーは怒気をぶつけた。
「なんだと。……オレが怖がっていたというのかッ?」
「ああ……そういう表現がお嫌いなら、怖じていた、とでも言い換えようか」
「貴様ッ」
 拳を握り締めた彼に、高千穂はおやおやと言いたそうに肩をすくめる。
「ムキになるなよ、アンディ。リーダーには冷静さが不可欠だぜ?」
「余計な……っ」
 お世話だ、と言いかけて、アンドルーは口をつぐんだ。
 ――というのも、彼が寮を抜け出し、こうして出歩いていたのは、べつだん月夜のそぞろ歩きに興をぼおえたからではない。
 チームのリーダーとしての責務。……それを、最近の彼はとみに痛感するようになっている。
 やるべきことは多数ある。しかし、そのために残された時間はわずかだ。彼らは、進むべき道、とるべき行動を選択せねばならない。……そして、『もう一度』はない。
 決断。それはもちろん、チームの面々それぞれが考え、またともに検討すべきことではあるけれど、最終的な決断は――リーダーに託されるだろう。
 重い、決断。
 その重さ、心にのしかかるプレッシャーからをほんの少しでも逃れたくて、彼は夜歩きをしていたのだった。
 それを察知されたのかと思い……アンドルーは思わず、高千穂の顔を睨みつけた。
 彼の眼光につらぬかれてもいっこう悠揚せまらず、少年はフフ、とほほ笑んで
「ま、……気持ちはわかる。きみのように頭の切れる、しかし図太さに欠けた人間が指導者を努めようとすれば、否応なく、窮する。まして若ければなおのこと」
 利いた風な口を、と思いつつも、アンドルーは内心なかばは同意している自分に気付いていた。
「若さは無条件の活力と希望を保証する……が、それらは要求しなければ手に入らぬし、手に入れなくとものちのち請求だけはしっかりされる。面倒なものだねぇ」
 アンドルーは首を振った。これ以上、この男の話を聞いていると、いらぬ影響を受けそうだった。
「……言いたいことはそれだけか? あいにく、オレも暇じゃない」
 言って、きびすを返した彼の背に、高千穂の声が聞こえた。
「――綾瀬理奈は」
「……なに?」
 足を止めた。続く、高千穂の声。
「彼女の、リーダーとしての資質は……どうだろうな」
 アンドルーに聞かせるようでも、独り言でもあるような口調。
「それは今夜、明らかになるだろうね――」


「……ここを、出る!?」
 綾瀬理奈は、今夜何度めかの絶句をした。
 ああ、と御子芝は淡々と答えた。受け答えのあいだも、装備を次々リュックに放りこんでいる。
「郷田氏には、話をつけてある。しばらく休学、という形になるだろう」
「で、でも、どうして!?」
「ああ、出る、という言い方は妥当ではなかったかもしれんな。むしろ、潜る、というべきかもしれない」
「……潜る?」
 そうだ、と御子芝。「私は地下に潜む。お前たちの使命を、陰ながらサポートすることになるだろう」
「どうしてそんな、……あ」
 言いさして、理奈は思い当たるところがあった。以前御子芝に聴いた『M.E.G』なる結社。その調査だと言うのか。
「そうだな……だが……」
 御子芝は言葉をにごす。「たしかに『M.E.G』は気になっている。しかし……」
「しかし?」
 いや、と御子芝は明言をさけた。「まだ確証はない。いわば、予感にすぎない……が、あいにく私の悪い予感はよく当たるのだこれが」
「そんな、けど……」
「ああ、心配はいらん。潜伏場所もちゃんと調達してある」
「いや、そうじゃなくて……」
「連絡方法については、いずれ――」
「……ねえッ!!」
 突然怒気混じりの声を浴びせられ、さすがに御子芝も手を止めた。
 審げな目で見つめられた理奈は、ふいに冷静さを取り戻し、……うつむいた。
「ご、ごめんなさい。……大声、出して」
「らしくもないな」
 御子芝は立ち上がり、理奈の肩をに手を置いた。その細い肩は小刻みに震え、いかにも頼りなげだ。
 右手どうしが重なる。理奈の手。それもまた、弱々しく力なく。
「事前に相談しなかったのは、悪かったと思っている。しかし――」
 そうじゃない、とか細い声。「そんなことは……いいんだけど。でも……あたしは……」
「ああ、話があると言っていたな。……何だ?」
 理奈は答えず、右手に力をこめた。うかがえるのは、……迷い。
「綾瀬、悩みごとなら……」
 理奈は手をひいた。そして顔をあげると、
「……ううん、いいや。やっぱりっ」
 言って、ほほ笑んだ。


「――のぞみたちには?」
 学園裏手の林。そこに理奈と旅支度の御子芝はいた。
「永久の別れというわけではない。かまうまいよ」
「そうね……」
 笑顔をつくりつつも理奈は、もう二度と会えないかもしれない、という予感をいだいていた。
「ああそうだ。……忘れるところだった」
 御子芝はポケットから文庫本を取り出すと、理奈に手渡した。「桜井に借りていたものだ。悪いが、返しておいてくれ」
「いいけど……何の本?」
 御子芝は仏頂面で答えた。「……料理の本だが、私には高度すぎて役にたたなかった」
 理奈はすこし笑った。
「そうそう……神崎には、日ごろの修練を怠るなと伝えてくれ」
「わかった。……達矢には?」
「……なにごともほどほどにしておけ、というところだな」
 わかり辛い言い方だが、言わんとするところはわかった。
「さて……では、そろそろ行くとしよう」
 理奈はうなずくのを見て、御子芝は振り返った。
「なぁ、綾瀬――」
「え?」
 背を向けたまま、御子芝は続けた。「リーダーというのは、責ばかり大きく、いいことのないものだ。だが……なくてはならぬものでもある」
「…………っ」
「私は、かつて一度もそうした責を負ったことがない。私には……未来が視えぬからな」
「未来……?」
「そうだ。異なる人々をまとめ、導き、その力を出しきらせる者は、未来を視ねばならぬ。未だ視えぬ明日をあるべき姿へたどりつかせるためには、それは欠かせぬこと……」
「そんな……そんなこと、あたしにだって――」
 できるさ、と御子芝はいった。ひどく、おだやかな口調で。
「お前はけっして強くはない。そして、図太くもない。むしろ繊細で、傷つきやすいほうだろう。だが……なればこそ、リーダーの資質があるともいえる」
 人の痛みを想像できぬ者、感性のにぶい者は向いていないのさ、と付け加える。
「すくなくとも私は……お前を、リーダーと仰いでいるよ」
 理奈は、息をのんだ。
「だから、もしお前が、やはり行くな、ここに残れと言うのなら……従おう」
「え……っ」
「どうする?」
 理奈は月明かりの下、立ち尽くしていた。それは、酷な、選択。
 ぎゅっと閉じられた目蓋が、かすかに揺れた。……
「御子芝さん……」
「うむ?」
「また、会えるときまで」
 ふ、と御子芝はほほ笑んだ。――顔は見えなかったが、理奈はそう、信じた。
「そうだな。また会えるときまで。……しばしの別れだ」
 御子芝は歩き出した。「いざさらば! お前たちの行く手に、胡蝶が幸を運ぶように――」
 遠ざかる別れの声を、綾瀬理奈は目を閉じたまま聞いていた。
 もう少しだけ――闇の中で。


「資質、か。耳の痛いことよ」
 高千穂の苦笑いを横目に、アンドルーは理奈の姿を見やった。
 その立ち姿はとても可憐で……しかし、ある種の威厳をも、感じさせた。
 ――未来を視る、か。
 アンドルーは心中でその言葉を繰り返した。未来。創るべき未来。
 ――オレにも、視えるのか。
 いや、視なくてはならぬ。リーダーとして起つならば。そこから、逃げないのなら。
(最後に選ばれるのは、どちらの視る未来かな)
 理奈から目をそらしたアンドルーは、高千穂が寮とは逆の方向へ歩き出したのに気付いた。
「……どこへ?」
 見れば、いつの間にかリュックを担いでおり、すっかり旅支度だ。
「あんたも……?」
「ま、そんなふうなところだ」
 高千穂はククッと笑い声をあげると、歩みを止めることなく、闇に消えた。
(奴は……オレを導いたというのか?)
 釈然としないまま、いちど首を振ったアンドルーは寮に向け歩き出した。
 そのときふいに、林の奥から声が届いた。
「まァがんばることだな、アンディ。きみたちにもまだ勝算は残っている」
(やはり厭な奴だ)
 アンドルーは、苦りきった。


 足を止めた。
 眼前の暗がり。気配が、あった。
「あなたがたは」澄んだ声。
「『警告者』さなくば『助力者』であるべきなのです。この時代のことは、この時代の人間にまかせなくては、いけないのです。未来は、与えられるものではないのですから」
「たとえそれが――」腰のものに手を伸ばしつつ、御子芝。「破滅へいたる道だとしても?」
「それがひとびとの選んだ道ならば――それがさだめ」
「悪いが」御子芝はほほ笑みつつ、鯉口を切った。「その『さだめ』というやつが、私は大の苦手でな」
「聞き分けのないこと――」
 跳んだ。
(さあ――)
 抜刀していた。
(――未来を、視にいこうか)
 銀光に映えた月影が、一閃した。
大神陣矢 2002/04/08月03:09 [24]

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