タブレットの脇にペンを置いたところで、メールの着信を告げる音が初秋の明け方の冷たい空気に満ち始めていた空虚な部屋の中に響いた。 彼は椅子を回し、背後にあるメール端末にしているノートパソコンの液晶モ... 続きを読む
カテゴリー: リレー小説
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第十節「二十六世紀の肖像」/皆瀬仁太
寮の窓から差し込む陽が、奥のベッドまで届いていた。いつのまに群れたのか、秋あかねが景色に色を加えている。ついっと線を引くように飛ぶ幾百のその姿にのぞみは目を奪われていた。 (あかとんぼ、か) 童謡... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第九節「文化祭への道」/森村ゆうり
九月とはいえ、秋の気配など微塵も感じさせない暑い日が続いていた。 学園では十月初めに開催される文化祭に向けて、生徒も教職員も準備に余念が無かった。聖天原学園中学校の文化祭は、一般的な中学校の文化祭... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第八節「妖剣・胡蝶陣」/大神 陣矢
「行くのか」 そう声をかけられ、足を止めて振り向いたのは、少壮の若武者だった。 無骨な面体に憂愁の色をたたえた巨漢の姿をみとめ、ふ、と口元を緩める。 「ああ。もう、この地に用はないゆえ」 「勿体な... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第七節「運命の選択」/諌山 裕
厚い強化プラスチック窓を通した漆黒の視界の中、白地に青と茶のマーブル模様の球体が横切る。 地球だ――。 それはリング型コロニーの自転に合わせて、見かけ上の運動をしている。地球と月との重力の平衡点... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第六節「オースティン3章16節に曰く」/水上 悠
キン! 耳障りな金属音が二人の気まずい沈黙の中に不協和音となって飛び込んできた。 「あれがベースボールってヤツか?」 アンドルー・ラザフォードが興味なさそうにいった。 「違うね。ベースボールじゃ... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第五節「過ぎし日々の想い」/諌山 裕
乾燥し荒れ果てた大地――。 砂塵をかぶって埋もれたアスファルトが、干上がった湖底のようにひび割れてささくれ立っている。かろうじて道路の名残とわかる道筋を、体全体をすっぽりと防護するスーツを着て、ひ... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第四節「職員室」/森村ゆうり
午前中とはいえ八月の太陽は、じりじりと全てのものを焦がす勢いで照りつけている。 校庭のポプラの木もいくぶんうんざりしたように見えるのは気のせいだろうか。 「暑いわ。エアコン、入ってるはずなのに暑いわ... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第三節「決闘者たち」/大神 陣矢
「まさか、お前とこういうことになるとは、な」 少年は唇をゆがめ、手にした得物に力をこめた。 「……それは……こっちの台詞さ」 相対するもう一人の少年は目を細め、身をかがめた。 「でも……も... 続きを読む
リレー小説『ラスト・フォーティーン』 第二節「二〇〇二年、夏」/諌山 裕
蝉が鳴いている。 真夏日が続いて、夜になっても湿気を含んだ空気が漂い、暑く寝苦しかった。異常気象が騒がれはじめて久しいが、毎年のように猛暑だ冷夏だと一時的な感心は引くものの、問題にされるのはビー... 続きを読む